バリ絵画の世界

バリ島の歴史
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2005年7月16日(土)
子供たちとの別れ

1ヶ月近くのアートフェスティバルもとうとう終わろうとするころ、いつものように会場へ行きぶらぶらしていた。売り子の子供たちにさっそく発見されて「○○○!」と呼ばれる。私は閉幕を待たずにデンパサールを今日の午後、起つのだった。前もって子供たちにもそれを告げてあって、みんなから住所を教えてもらい、訪ねる約束をしていた。最後にお別れをいいに来たのだけれど、仲良しの肝心要のアンガールダナがみつからない。「アンガールはどうしたの?」聞くとあっちだよ、と指さしてくれた。見ると1人でぷらぷら歩いている。

「おはよ!」私が後ろから声をかけるとくるりと振り向いた。そうして近くの石塀に売り物バスケットを置くと、私のほうをじっと見て、「ぼくも日本に一緒にいく!」と真剣な顔で言った。「お願い!いいって言ってよ!」言葉につまった。無理とわかっていながらも必死になって私が去っていかないようひきとめようとしている。今までは大人ぶってみせていたけれど、本当はまだ小さな子供なのだ。甘えたい時期なのだ。「私もアンガールと一緒に日本に行きたいよ。だけどね、それは今じゃない。アンガールにはお父さんがいるでしょ」「お父さんも一緒に連れていって!」こうなったらなんでもありという感じだ。最後になんといっておさめたのか思い出せないけれど、アンガールの実家へ遊びに行く約束をした。「写真を持っていくからね!絶対行くよ!」アンガールダナはとても嬉しそうだった。私の携帯電話番号を書いた紙をにぎりしめ、「うちへ来たら一緒にたこあげしたい!海が近くて風が吹いてるから!」と言う。「一緒にしようね!」そうして売り子たちのところへ戻り、みんなといろいろ話して、お昼も食べた。とうとう別れのときがきた。みんなは笑顔で「またね!元気でね!」と手を振って見送ってくれた。けれどアンガールダナが私とどうしても目を合わせてくれなかった。「アンガール!私、もう出発するんだよ!」けれどプイッと横を向いたままだ。横にいたアンガールダナが姉のように慕っている女の子がアンガールダナを小突くと、ちらっと一瞬こっちをみたがまたそっぽを向いてしまった。私はポンッとアンガールダナの肩をたたくと「元気でね!」と言って会場を後にした。とてもなんだか心残りだった。最後かもしれなかったのに、どうしてさよならの言葉すら言ってくれなかったのか。あんなにいろいろお話して仲良くなって助けてくれたのに、泣きたい気持ちだった。

そうして宿に戻ると、送迎を頼んでいたワヤンがすでに待っていた。私が荷物をまとめていると、宿のオーナーさんがやってきた。「いまね、あなたの知り合いっていう小さな男の子が来てるよ」え?まさか、と思って部屋のドアのほうを見るとアンガールダナがまさに走ってこっちへやってくるところだった。「アンガールダナ!」アンガールダナはそのまま私に抱きついた。「1人できたの?よく場所わかったね」「前に○○○の後つけてたんだ」なんとまあ。「またね!バイバイ!」そういうとアンガールダナは入ってきたときと同じように飛び出していってしまった。それはほんとうにあっという間のできごとで、でも私の心は瞬時に満たされたのだった。オーナーさんが「あの子、出ていきながらTシャツまくりあげて顔をふいていたよ。大泣きしてたよ」私にさよならいうときは笑顔だったのに、泣くのを我慢してたんだ。絶対、アンガールの家に遊びに行くからね。待っててね。私はそう心に誓った。

2005年7月15日(金)
一人旅ならでは

そののちも、デンパサールに滞在しながら舞台を見る毎日が続いた。そんなある日、写真フィルムもだいぶたまってきたのでそろそろ現像に出そうと思い、現像してくれるお店を探すことにした。近くの売店の人にお店があるか聞くとそこから四百メートルくらい先にあるという。朝だったけれど日差しが強く、けっこう歩くなあと思っていたら、そのお店から出てきたお兄さんが通り道だからバイクに乗せてくれるという。これはお金とられるかなあと思いながらも日差しも強くなってきたし、歩くのはつらいからと思い、お願いすることにした。バイクで市場を抜けて五分くらいで到着した。バイクから降りてお礼をいうと「どういたしまして!」といってそのままバイクを飛ばしていってしまった。親切な人だった。バリではこういうことがよくある。心が暖かくなる瞬間だ。私は無事、フィルムを現像に出すことができ、帰りはさすがに歩くしかなかったけれど市場をのぞきながらのんびり歩いた。朝の市場はごみごみしていて、でも生活感たっぷりで面白い。いろんな種類のバナナが並んでいたり、鳥かごに入れられた鳥たちがピーピーうるさかったり、ひとつひとつが新鮮だ。私は売店でお水を買い、フェスティバル会場へと向かったのだった。

この日だったか、会場内ではじめて日本人と偶然に出会った。その人は勤めていた会社をやめて、放浪の旅に出ているのだった。これからヨーロッパに行くという。私がバリへ来て、1週間ほどずっとこのフェスティバル会場に毎日通っているというととても驚いて「ええ?ちょっとちょっと、1週間って言ったの?踊り見るためにずっと通ってるの?だって朝と夜以外なんにもやってないでしょ?ひまでしょうがないよ!ここに日本人がいたのもびっくりだけど、1週間も1人でいるとはねえ」そんなにすごいことなのだろうかとこちらが逆に驚いてしまった。「あいてる時間は売り子さんとお話したり、絵を描いてるんですよ」「画家さんなの?」「趣味なんですけどね」「へええ」おかしな人がいるもんだ、というような顔をされてしまった。ひさびさに日本人と出会ったのでお互いに情報交換をした。私は地図をもらったり、おすすめの屋台を教えてもらったりした。しばし話したあと「じゃあがんばってねー!」といって別れた。
旅をしているとほんとうにいろんな人に出会う。また話が面白いのだ。バリなんかは1人で放浪している人も少なくないようだ。私を含めて。治安はいいとも悪いともいえない。外国はどこでもそうだけど、自己管理をしっかりしていないといけない。持ち物もそうだし、夜道は1人で歩かないなど。幸いなことにいままでトラブルに巻き込まれることなく旅ができている。ありがたいことだ。